咖啡场景
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投稿者
小坂章子
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2015-03-25
  • 珈琲がそこにあるだけで、
  • いつもの日常が豊かにふくらみ始めていく。
  • そんな珈琲まわりの徒然話を日本よりお届けします。
  • 書籍『大坊珈琲の時間』を味わう。

    2015年4月1日。
    キムホノさんと大坊勝次さんの対談がおさめられた本が、
    名古屋の出版元「自由空間」より発売された。
     大坊さんとの出会いによって珈琲の世界を知り、
    自らのものづくりや人生をも考え直す機会を得たと話す、
    瀬戸在住の陶芸家キムホノさんの自費出版である。

     「大坊珈琲店(東京-南青山 2013年12月閉店)」が
    38年の歴史に幕を閉じると知ったとき、
    大切なこの店で過ごした時間を何らかの形で残したい、
    感謝を伝えたいと、キムホノさんは思いたった。
    だから、この本に登場する大坊珈琲店や大坊さん、
    惠子さんの姿は、キムホノさんが見てきた
    大坊珈琲の世界ということになる。

     まず写真が違う。雑誌などの通常の取材の場合、
    開店前の短時間で撮影されるものだが、
    この本の場合、営業時間内の撮影が許されている。
     たくさんの抽出待ちのカップが見てとれるカウンター席。
    角に座ったお客と談笑する大坊さんの表情は、
    いかにも愉しげでこちらまで笑顔になる。
    自分もあの席が好きでよく座っていたなあとか、
    焙煎の一部始終を眺めるひとときはいいものだったなあとか、
    当時の気持ちがゆるやかによみがえる。
    身をかがめ、少し首をつきだし、囁くように話す
    大坊さんの仕草。一本の美しい線を描く真摯な抽出。
    そうした“大坊珈琲の時間”に、自分のものづくりを
    問うかのように対峙するキムホノさん。
     個人的には、大坊珈琲店に氷を届け続けた氷屋さんの
    姿が映った写真が印象的。珈琲店を陰で支える裏方の
    存在に目をやる、キムホノさんの目線が微笑ましい。
    またタイトルにあえて「店」を入れなかったのも、
    キムホノさんらしい潔さである。

     東京、名古屋、瀬戸で行なわれたふたりの対談は、
    珈琲と器で表現方法は違っても、自分が心からいいと
    思えるものを作り、人に提示しながら日々生きてきた
    という共通項によって、奇譚なく語られる。
    互いの作品や生き方について、日頃から意見を
    交わし合ってきた、または口に出さずとも心を
    通わせてきた、ふたりだからこその率直なやりとりは、
    さわやかで味わい深い。
    自分にも思いあたるフレーズも見つけては、
    ふっと笑みがもれる。安易な言葉でまとめてしまわず、
    微妙な感覚を表現してみせる、その豊かな言葉の世界に
    「そうかあ」と一人唸る。
    気がつけば、読み手の自分もそこに同席しているかの
    ような居心地に包まれている。

     キャメル色のジャケットを着て快活に歩く
    大坊さんとキムホノ氏の写真も必見だ。
    背の高いキムホノさんと小柄な大坊さんは、
    映画でよく見かける兄弟分を思わせる。
    自分や社会と誠実に向き合ってきたふたりは、
    どんな岐路を迎えたとしても自分に嘘をつかず、
    ちょっぴりのユーモアを交えながら
    自身が決めた道を歩み続けていくだろう。
     互いを敬い、慈愛をもって交わされる
    言葉の連なりが琴線にふれるこの一冊。
    読み終わる頃には、大坊さんの珈琲が飲みたくなり、
    キムホノさんの作品が見たくなる、そんな愛すべき書籍です。

    『大坊珈琲の時間』
    価格2500円+税 出版元/自由空間
    名古屋市東区徳川2-18-18 電話/FAX:052-937-5565


    書籍『大坊珈琲の時間』を味わう。

    書籍『大坊珈琲の時間』を味わう。