咖啡场景
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投稿者
小坂章子
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2018-01-25
  • 珈琲がそこにあるだけで、
  • いつもの日常が豊かにふくらみ始めていく。
  • そんな珈琲まわりの徒然話を日本よりお届けします。
  • 珈琲をやる人たち

    先日、今、制作中の喫茶本にいれる対談を行うために太宰府の『珈琲蘭館』を訪れ た。対談をお願いしたのは、マスターの田原照淳さんと、今や全国キー局出演で再び 時の人となった『豆香洞コーヒー』の後藤直紀さんである。

     午後6時半。もしかして後藤さん、忙しいから今日のことを忘れているかもしれま せんよと田原さんがいうので、念のために確認メール。返信がないので、ああ、これ は忘れてるかも、まあその時はまたにすればいいかなどと、カウンターに座って話し ていると、午後7時ぴったりに後藤さんが登場。手には、お土産の和菓子をさげてい る。忘れてるなんて勝手に言ってごめんなさいと心の中で詫びながら「今、帰りです か?」とたずねると、今、東京から戻ってきたばかりで、先程、家族が福岡空港に迎 えに来てくれて一緒にごはんを食べたのだという。

     「東京は、何で?」「収録があったんですよ」「ザ?ロースト(後藤さんが開発に 携わったパナソニックの家庭用小型焙煎機)ですか?」「いえ、マツコの知らない世 界」。うわーっすごい!と、私と田原さんも一気に盛り上がった。が、後藤さんは一 瞬頬をゆるめたものの、すぐにいつもの淡々とした顔つきに戻り、もっとコーヒーの 話を色々したかったのに収録時間が短くて、いじられて終わりだったと口惜しそうで あった。なんでも台本をもらった時点で、内容をかなり追加してもらったそうだが、 肝心のマツコさんの持ち時間が足りず、用意した企画のほとんどができなかったらし い。「それでも、どこの誰かわからない人がテレビに出て喋るよりは、自分が喋った 方がいいかな。テレビにコーヒーという言葉がでるだけでも、コーヒーにとってはい いことになればそれでいいんですよ」と語る後藤さんを観ていると、はあー、自分の 仕事で日本を背負ってるというのは、一体どれだけすごいんだと自分なんかは、おの のきを覚える。こうした広報活動も、ローストの世界チャンピオンの仕事らしいけれ ど、店の商売との両立は生半可ではないだろう。

     対談は、後藤さんも疲れているだろうし、2時間くらいで終わろうと思っていたが、 私がみてきたかぎり「永遠のライバル」と感じている、このふたりである。結局、4 時間も喋りつづけ、テープ起こししたらA4用紙で40枚にもなった。当然、すべて収 録できる量ではないので、いつかどこかで全体を紹介したいと考えている。

     『九州喫茶散歩』を出版して約10年。この10年間に、コーヒー界はめまぐるしく変 化した。1982年にアメリカで設立されたスペシャルティコーヒー協会(SCAA =Specialty Coffee Association Of America)は、コーヒーを学ぶ教育システムを 世に生み出した。日本を始め世界で導入されたこの基準は、数値化がむずかしい味覚 の世界に共通言語をうみだし、コーヒーの門を叩く人々にとって、業界に足を踏み入 れやすい資格制度の確立へとつながった。

     もちろん、どういうふうに学んでもいいわけだが、とかく自店にこもりがちになっ て、他を見る、知る機会が少ない喫茶店主らにとっては仲間と切磋琢磨する訓練や刺 激となったに違いない。自分たちが置かれた業界内の行く末や課題、世界規模で抱え る産地の問題を理解し、その解決や一般への周知につながる“筋力”をつけるという 意味では、スペシャルティコーヒーの世界はとても有意義なことだと思う。

     ただし、どれほど環境に恵まれていようとも、最後はその人間が何をどう願い、行 動するかにかかっている。自分の手だけが知る今の技量をどこまで伸ばしていけるか。 他人と競うのではない、自分自身との攻防戦なのだ。コーヒーという仕事に、どこま で打ち込めるか、何のために誰のために、どういう状況を目指すのか。自分の喜び、 人の喜び、街の喜び、珈琲の喜び、それらが折り合うところは? そのために今、自 分にできることは?

     ふたりの対談を聞きながら、自分が決めた人生を信じ、時間をかけて積み上げるこ とから逃げない愚直で遠回りな店主らの姿に胸があつくなった。それではまた次回。

    ●キャプション/珈琲蘭館の田原マスター。太宰府らしく梅のカップで。
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