咖啡场景
  • 小坂章子さんのコラム

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コラム
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投稿者
小坂章子
since
2015-11-25
  • 珈琲がそこにあるだけで、
  • いつもの日常が豊かにふくらみ始めていく。
  • そんな珈琲まわりの徒然話を日本よりお届けします。
  • 雪の日の喫茶店

     正月気分もそろそろ抜けたかなという1月下旬に、まさかの冬将軍。
     気象台の記録によると、私が住む福岡に大雪警報が出たのは昭和58年以来だとか。今年も暖冬だろうと油断していたけれど、天候をつかさどる神の采配はそう単純なものではないらしい。  ゴム素材の靴を履いて外を歩けば、普段は使いなれないチェーンを装備し、ガリガリと鈍い音を立てながら走る路線バスや乗用車、そろりそろりと前屈みになって歩く会社員、休校になったらしく街中の公園で雪合戦している子供たちなど、非日常の光景が垣間見えて胸がおどる。
     郵便局に行った足で、こんな日はお客様も少ないだろうと、近所の喫茶店に立ち寄った。『珈琲ふじた』(福岡市)は、モーニングが美味しい一杯だてのネルドリップ珈琲と手作り絶品カレー、数種類もの充実したモーニング、蝶ネクタイのマスターを始めとする家族ぐるみのスタッフが魅力の老舗である。
     扉を開こうとしたその瞬間、何やら視線を感じた。ふと足下に視線をおとすと、ディズニー映画「アナと雪の女王」に登場する雪だるま、オラフばりの存在感を放つ彼と目があってしまった。身長にして20センチ。店名にあやかって、勝手に「富士男」と命名しよう。栗色のつぶらな瞳は、よくよく見れば2粒の珈琲豆。こりゃ、灯台下暗し、ディズニーも脱帽のナイスアイデアである。
     「マスター、こちらの雪だるま、珈琲屋ならではですね」
     「ハハハハ、目だけじゃ淋しいから、赤いビー玉を口元に埋めこもうとしたんだけど、雪がかたくなっていて入らなかったんですよ。頭にトポスの葉っぱでものせようかな」
     こういうちょっとした遊び心がいい。寒さのため凝り固まった肩まわりもほぐれる思いがする。ランチのカレーと珈琲で冷えた体をあたためていると、お客さんがちらほら。
     「雪のなかをありがとうございます」とマスターが微笑み、頭をさげる。
    「いやあー、でも本当によく降るねえ。うちなんか水道が凍ってトイレに行けないから、ここがあって助かるよ」
     大雪に見舞われたからこそ、ぐっと縮まる両者の距離感。喫茶店はかまくらのように私たちを包み込み、運命共同体とでもいうべき親密さを生む。この道30余年、天候不良を理由に営業をやめた日を尋ねると、「そうねえ、一日あるかないかですよ」とママ。
     「今日もね、いつも7時半の開店と同時にいらっしゃる常連のお客様がいるんですけど、さすがに今日はいらっしゃらないだろうと7時過ぎに店に出たんです。来られなかったなあと思っていたら、さっきその方から電話があって、今朝は道が凍る前に行かなきゃと思って6時40分には店の前に車を停めて待機していたっていうんですよ。7時になっても店が開かなかったから、あきらめて帰ったって。ありがたいですけど驚きました」
     店を開ける側も、訪れる側も、互いに一歩も引かず、いつも通りを全うしようとする。まさに「槍が降ろうと」の世界。これぞ、毎日毎日の積み重ねによって育まれた双方の信頼の証である。
     台風や震災などの非常事態時も同様のことがいえるだろう。心身ともに疲れ、張りつめた状況だからこそ、あえていつもと同じ一杯をお腹にいれる。そのたったいっときの時間がどれほど助けになることか。東北の震災後、いち早く営業を始めた喫茶店やバーの主が、一日も早く店を開くことが自分たちの役割と語っていたのは、そういうわけなのだ。日々の珈琲はいつもの自分へと戻る助けとなり、折れそうな心と体のつっかえ棒になってくれる。たかが珈琲、されど珈琲。さりげない存在だからこそ、多くの人の心に寄り添えるのだ。
     久方ぶりの大雪の日。湯気がのぼるブレンドをすすりながら、この街に喫茶店があることの幸せをしみじみと味わった。それでは、また来月。


    雪の日の喫茶店

    雪の日の喫茶店

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