咖啡场景
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投稿者
小坂章子
since
2015-10-25
  • 珈琲がそこにあるだけで、
  • いつもの日常が豊かにふくらみ始めていく。
  • そんな珈琲まわりの徒然話を日本よりお届けします。
  • 島根県浜田市で出会ったヨシタケ珈琲(2)

     “ネルドリップコーヒーを極めた男”とよばれた三浦義武ことヨシタケの功績を共有し、その足跡を辿る「浜田でコーヒーを楽しむ会」。二日目は、学芸員の神さんによる情感たっぷりの解説付き、ネル.ドリップの聖地巡りバスツアーに約60名が参加。バス3台で各所を巡った。
     まずは三隅エリアの大麻山(標高599メートル)山頂の展望台に登り、司馬遼太郎氏が『花神』という小説で描いた紺碧の海を眺めた。それは、「石州の天は、長州の天より青い」「そんなに青うございましたか」「海がまだ群青そのままだな」という台詞で語られる。海風に吹かれ、参加者一同、その美しさに感じいったのであった。
     その足で大麻山神社の枯山水庭園を見学。地元ではほとんど宣伝していないそうだが、著名な庭園研究家が「江戸時代初期を代表する枯山水庭園」と高く評価したらしい。人からその価値を認められるまで、自らは口を開くこともせず黙っている。「食」についてもそう、献立に文句を言うことも、もっとおいしいものがないかと探しまわることもなく、出されたものに感謝して黙っていただく。神さんによると、そのような奥ゆかしい性格を持ちつつも、胸のうちには情熱を秘めている、それこそが石見人(いわみびと)の特徴らしい。(ま、例外はあるのだろうけど)。
     次は、日本の棚田百選にも選ばれた室谷の棚田を見下ろす高台にあるヨシタケの生家へ。くねくねとした山間の坂道をバスは、ゆっくりじっくり登っていく。このバスの運転手さんは、神さんとは旧知の仲。今回の乗車は、まったくの偶然ということで「石見一安全運転をする運転手さんですから、皆さん良かったですね」と神さんが声を弾ませるので、こちらまで得した気分になった。
     かつて“お館様”と呼ばれていたヨシタケ生家の立派な石垣跡を見学した後、生家の裏山にある御墓に手をあわせた。若い頃、ヨシタケと共に缶コーヒー製造に携わっていた三明深雪さんが菊の花をたむけると、木漏れ陽が降り注ぎ、清らかで和やかな空気に包まれた。何でもこの日のためにヨシタケさんのご親戚の方が駆けつけ、我々が歩きやすいように山道を整備してくださったとか。石見の方々の思いやりに触れ、ヨシタケという存在の大きさを知るのであった。
     「では、皆さん、ツアーの行程にはありませんが、せっかくですから某缶コーヒーのロケ地をご案内しましょう。そのCMでは、この風景をCG加工した光景が映っているんですよ。見覚えのある民家の屋根があったから、ここですかと広報の人に確認したところ答えてはくれませんでしたが、間違いないですよ」。そう断言する神さんにみちびかれて訪れた土産物屋の裏には、2時間に一本しか列車が通らない沿線の向こうに、紺碧の海。「ここで列車が通ったらいいのにねえ、まさか、そんなうまくいくわけないよねえ」と神さんが笑っていると、浜田市役所の本イベント担当者、岡橋さんが前につんのめらんばかりの勢いで土産物屋から飛び出してきた。「皆さんっ、あと1分で列車が来ます!」。ええええっ! そんなミラクルが!? 一同、カメラを構えると同時に、トンネルから紫色の電車が登場。
     どよめきと歓声に包まれた鉄ちゃんさながらの撮影会にわいていると、「あっ、竜巻だ!」の声。電車が過ぎ去るのと同時に、今度は、海の表面に生まれた渦が海上をすべるようにこちらに進んできたかと思うと、グングンと空に向かって上昇していくではないか。初めて見る自然現象に一同は、狂喜狂乱の大興奮。
     バスに戻ると同時に、信じられないほどの大雨が窓をたたきつけた。「先ほどの竜巻は、まるで竜が天に昇っていくみたいでしたねえ。いやあ、ヨシタケマジックですよ。ヨシタケさんは、人をびっくりさせたり喜ばせたりするのが大好きな方だったそうですから、先ほどの一部始終は彼なりの演出だったのかもしれませんね。そしてこの雨もヨシタケの涙のよう。皆さんがこうして集まってきてくれたことに感激しているのでしょう」と神さん。
     海が見えるイタリアンレストランでおいしい昼食と、心尽くしのヨシタケコーヒ?を楽しんだ後、紺屋町「ヨシタケ」店舗跡地で記念写真をとり、三浦義武の栄誉を称える記念碑の除幕式をもって会はフィナーレを迎えた。立派な記念碑だが、周囲に珈琲店が一軒も見当たらないのがちょっと淋しい。
     豊かな自然が残る島根県浜田市は、商店街もいい感じでひなびた田舎である。外食への興味も、店の数も少ない。しかし、日本のネル.ドリップ珈琲を今に伝える先駆者、ヨシタケは、この地に店を構え、その濃厚な味わいを老若男女に伝えてきた。その当時の舌の記憶をもっている人が生きて、それを伝え続ける限り、ヨシタケもまたこの地で生き続けていくだろう。ヨシタケを通じて珈琲を語り合う愛好家が全国から集う“コーヒーの薫るまちづくり”。一人でも多くの人々が浜田市を訪れ、ヨシタケのルーツを知り、その味を繋いでいくことを願っている。

    それでは、また来月。

    島根県浜田市で出会ったヨシタケ珈琲(2)

    島根県浜田市で出会ったヨシタケ珈琲(2)

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