咖啡场景
  • 小坂章子さんのコラム

  • 咖啡场景

会員
5,193
コラム
4,606
投稿者
小坂章子
since
2015-09-25
  • 珈琲がそこにあるだけで、
  • いつもの日常が豊かにふくらみ始めていく。
  • そんな珈琲まわりの徒然話を日本よりお届けします。
  • 島根県浜田市で出会ったヨシタケ珈琲(1)

    珈琲にもいろんなスタイルがあるけれど、透きとおった琥珀色のしずくを集めたネル.ドリップ珈琲がやはり一番口に合う。だし文化になじんだ日本人ならではの味わいといえるだろう。今回は、そんな日本式ネル.ドリップ珈琲のルーツにまつわる話を少々。

     日本コーヒー文化学会から届いた「浜田でコーヒーを楽しむ会」のパンフレット。眼光するどい初老男子のモノクロ写真を中央に据えたデザインはインパクト大。自らが道化になって客席をわかせる喜劇役者か、魔法の秘薬を発明する研究者か、という風貌のこの人物こそが、日本で初めてネル.ドリップ珈琲を開発した三浦義武氏である。昭和後期には「ミラ.コーヒー」なる日本初の缶コーヒーを開発。日本橋三越店で売り出したというから、正真正銘のパイオニアである。

     1935年、三浦義武氏は、銀座の白木屋デパートで「コーヒーを樂しむ會」を開き、文化人らを独自のネル.ドリップ珈琲でもてなした。その味は、親交のあった作家の司馬遼太郎氏において「われわれは、絵画において富岡鉄斎、陶芸において柿右衛門を誇るがごとく、コーヒーにおいてかれを世界に誇っていいであろう」と言わしめたほど。ちなみに、今も全国各地で行なわれる「コーヒーを楽しむ会」の名称も三浦氏の会がルーツというから、いやはや、先人の影響というのは計り知れない。さて彼の故郷である浜田っ子及び珈琲関係者は、三浦氏を「ヨシタケ、ヨシタケ」と愛と親しみを込めて呼び捨てにしていたので、私もそれに習うことにしたい。

     2015年9月12,13日。島根県浜田市の島根県立大学?浜田キャンパスにて開催されたヨシタケの足跡を辿るイベントには、180人もの珈琲ファンが訪れた。なかには台風接近により直行便が飛ばなかったので、わざわざ羽田で乗り継いで駆けつけたという珈琲狂も。初日は、講演会。石見人(いわみびと)を代表する学芸員でヨシタケ研究家の神英雄(じんひでお)さんと、もと文藝春秋の敏腕編集者だった高橋一清氏が「三浦義武の人物像とその功績」と題し、ヨシタケにまつわる知られざるエピソードを披露してくださった。ヨシタケの息子、浩氏は小説家であったため、高橋氏はヨシタケの珈琲を愛し、浩氏の仲人までつとめた司馬遼太郎氏に「浩くんをよろしく頼む」といわれていたという。ある時、「父、ヨシタケのことを書いてみませんか、私の編集者人生をかけて伴走しますから」と浩氏に直談判したが、一笑に付されたというから、人生はうまくいかない。もし浩氏が『ヨシタケ物語』を記し、直木賞でもとっていたならば、ネル.ドリップ珈琲はより深い理解をもって世界じゅうの珈琲愛好家に受け入れられたのではないか。高橋さんは、そんなほろ苦い思い出をやさしい語り口で情緒豊かに語られた。

     さて、神様もとい、神さんは、この会に合わせてヨシタケ式抽出を忠実に再現した珈琲を7人体制で準備してくださった。会が始まる前に舞台裏をのぞくと、ポットの水をチョロチョロと慎重に注ぎ込みつつ、ネルフィルターの珈琲粉を菜箸でギュッギュッとゆっくり押し込んで抽出しているではないか。数年前、台湾のカフェでペーパーフィルターにいれた豆の粉をちょこちょことかき混ぜながら抽出するのは見たことがあるが、それとも雰囲気が違うし、こんなやり方は初めてだ。「見てください、これがヨシタケの抽出です。200gの豆を使って、菜箸で撹拌しながら800ccを抽出するんですけどね。300ccくらいたまったら、またその液体を豆に注いで深く濾していくですよ。最初は水、最後は湯で、雑味が混ざらないように。え、ネルですか? 自分達ではどうにもできなかったので富士珈機の福島社長に相談したら、大阪から分厚い綿のネル布を手配してくださったので二重にして使っています。本当に助かりましたよぉ!」と目をうるませる神さん。何でも1時間ほどかけて、じっくりじっくりエキスを搾るというから、日本式珈琲セレモニーみたい。

     ちなみに抽出メンバーは、ヨシタケコーヒー認証制度(*)の試験に合格した店の有志。皆さん、珈琲歴は浅いものの、それだけに一生懸命、ていねいにいれておられた。「ポタポタポタポタおちる珈琲の液体を見ているとね、涙をこらえるのに必死なんですよぉ」としんみり呟く神さんに、「ハイ!これがヨシタケの味」と手渡された漆黒のエキス。一口ふくむと、深く濃厚にしてまろやか。私のなかに眠る数少ない味覚の記憶をたぐり寄せると、長崎の珈琲店「囁き坂」で飲んだ水出し珈琲がふっとうかんだ。(次号へ続く)

    *「コーヒーの薫るまちづくり」を発信する島根県浜田市が、ヨシタケ式抽出方法でいれたネル.ドリップ珈琲を提供する資格を与えるもの。

    島根県浜田市で出会ったヨシタケ珈琲(1)

    島根県浜田市で出会ったヨシタケ珈琲(1)

    島根県浜田市で出会ったヨシタケ珈琲(1)

    島根県浜田市で出会ったヨシタケ珈琲(1)

    島根県浜田市で出会ったヨシタケ珈琲(1)